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5Gと5G向け半導体のグローバルプレイヤー

 こんにちは!たけぴです。
2020年は5G元年と言われていまして、一般ユーザの利用がいよいよ開始される年です。ユーザに知られる機会は少ないのですが、この5Gのサービスを巡ってグローバルプレイヤーが数年前から様々な準備を進めてきました。今回は5Gに関連して半導体のグローバルプレイヤー、特にスマホなどの通信端末に関わる関係性を概観して見たいと思います。

第5世代移動通信システム(5G)

5Gとは既存の4G通信よりも「高速大容量」「低遅延」「多数同時接続」を可能とする通信システムで2019年より世界各国でサービスが開始されました。
5Gの導入によってリッチな動画ストリーミングや高速なコンテンツのダウンロード、新しいIoTサービスなどが期待されています。

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出典:Pixabay

5Gの技術的な標準化はフェーズ1〜フェーズ3まであり、現時点ですでに仕様が確定したものとこれから仕様策定されるものがあります。
周波数帯はサブ6GHz(※1)と呼ばれるものと、より高周波のミリ波帯(※2)と呼ばれるものがあり、日本では総務省がNTT, KDDI, ソフトバンク, 楽天モバイルのキャリア各社に両周波数帯を割り当てています。サブ6GHz帯は従来の4G(LTE/LTE/Advanced)やWi-Fiで利用されて来た周波数帯を拡張するため、従来の無線資産を活用しやすいというメリットがあります。一方ミリ波帯の方は比較的新しく、広い周波数帯を確保したり高速大容量に対応しやすいというメリットがある反面、電波の特徴として直進性が高く大気中での電波減衰が大きいというデメリットがあります。このデメリットは5G基地局を単体で運用する場合は単位エリア当たりに多く基地局を設置しなければならずインフラコストが高くなるということに繋がっています。

基地局の運用方法は2パターンあって、1つはノンスタンドアローンといい、従来の4G(LTE/LTE/Advanced)の基地局とセットで5G用の設備を持つものです。もう1つはスタンドアローン型といい、5G専用の基地局で運用するものです。

グローバルでこの周波数帯と運用方法に対応している国を以下に示します。

サブ6GHz帯 ミリ波帯
スタンドアローン アメリカ、中国 -
ノンスタンドアローン アメリカ、韓国、日本、ヨーロッパ アメリカ、韓国、日本

グローバルで見るとサブ6GHzしか対応していない地域もかなりあります。

5Gサービスを享受するにはキャリアが用意する基地局側の対応とユーザが利用する通信端末側の両方の対応が必要です。

スマートフォン向け半導体

日本では一般ユーザから見るとiPhone(Apple)とかXperia(SONY)のスマホを提供するメーカーは馴染みがあると思いますが、スマホに搭載されている半導体バイスに関しては色々なプレーヤーがあり、関係性が複雑です。一般的に端末の中のコアとなる処理部は機器を小型化したいのでCPUやGPU、通信モデムなどを1チップにして提供されることが多いです。この半導体をSystem on Chip(SoC)と言います。

このSoCを供給するメーカはクアルコム(米)、サムスン(韓国)、メディアテック(台湾)、ファーウェイ(中国)が主要なプレーヤーです。
SoCメーカは多くの場合、半導体の設計技術のライセンスをARM社(英)から受け、自社でチップを設計します。チップの製造は以下の2パターンがあります。

  • 自社で製造する場合

サムスンは製造だけを請け負うことも出来るし、全て自社で設計して製造することもできます。

さて5G向けのSoCメーカがどのような状況になっているかと言うと、元からクアルコムが強いのですが、2019年にメディアテックがチップを提供すると発表したので、現在のところ供給メーカはクアルコム、メディアテック、サムスンです。クアルコムはSnapdragonと呼ぶ演算チップとモデムを製品化していて、メディアテックはDimensity 1000というチップを発売する予定です。サムスンはExynosというチップセットを製品化し比較的安い価格で提供しています。ちなみにインテルは4Gまでチップ供給していましたが2019年4月にスマートフォン向けの5G事業から撤退を表明しています。

スマホ向けSoCとしてクアルコムが元々強いと述べましたが、1社だけが強い状況では競争の原理が働かないので市場としては望ましくないです。実際、クアルコムはチップを販売するだけでなく、スマホ端末の価格に応じて一定割合のロイヤリティを課すビジネスを行っており、これが二重取り(ダブルディッピング)だとして訴訟にまで発展しています(※3)。これらの事情でクアルコムのチップを採用する場合、スマホの価格を引き上げている要因になっているかと思います。ですのでメディアテックが名乗りを上げたというのは期待が持てるところです。

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出典:クアルコム

3社が発表している製品の主なスペックを表にまとめてみました。

クアルコム Snapdragon 865 クアルコム Snapdragon 765G メディアテック Dimensity 1000 サムスン Exynos 990
モデム X55(外付け) X52(内蔵) 内蔵 Exynos Modem 5123
CPU Cortex-A77(2.84GHz) ×1
2.4GHz ×3
Cortex-A55(1.8GHz) ×4
Cortex-A76(2.4GHz)×2
Cortex-A55(1.8GHz)×6
Cortex-A77(2.6GHz) ×4
Cortex-A55(2.0GHz) ×4
Exynos M5(カスタム)
Cortex-A76 ×2
Cortex-A55 ×4
GPU Adreno 650(独自) Adreno 620(独自) ARM Mali-G77 ARM Mali-G77
周波数帯 サブ6GHz/ミリ波帯 サブ6GHz/ミリ波帯 サブ6GHz, 2.5GHz帯(ミリ波帯非対応) サブ6GHz/ミリ波帯
通信速度 下り7.5Gbps 下り3.7Gbps 下り4.2Gbps 下り5.1〜7.35Gbps
価格 $120〜150 $70 $70〜 -
製造先(プロセス) サムスン(7nm) サムスン(7nm) TSMC(7nm) サムスン(7nm)
カメラ 200万画素 192万画素 80万画素 108万画素
備考 AI機能あり AI機能あり

製品によってモデムを外付けにするタイプやCPU, GPUを自社のカスタムを利用するものなどがあります。
Snapdragon 865やExynos990はハイエンド向け、Snapdragon 765GやDimensity 1000はミドルレンジ向けとなります。
パフォーマンスやバッテリー持ちなどの性能比較はこちらのサイトが参考になります(英語)。
メディアテックについては、Dimensity 10000がミリ波帯に対応しておらず、米国のキャリア(A&TやVerizon)が持つ基地局のミリ波帯に対応できないので米国向けの製品には採用されないでしょう。サブ6GHz帯しか持たない中国やヨーロッパの市場をまず攻略するものと思われます。メディアテックは実際にシャオミとの連携を強めています。

5G対応スマホ端末提供プレイヤー

グローバルでスマホの出荷台数シェアを表にしたものが以下になります。

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出典:IDC Quarterly Mobile Phone Tracker, Q4 2019,January 30, 2020

サムスン(韓国)、ファーウェイ(中)、Apple(米)が Top3で中国のシャオミ(※4)、OPPO(※5)がそれに続きます。日本のメーカは見る影もないですね。
前述のSoCサプライヤーはこれらのスマホ完成品メーカが顧客となり、適切な5Gフロントエンドソリューションを提供しなければならないという関係になります。ファーウェイは米中貿易摩擦の影響を受けましたが、それでも2019年に中国でのシェアを伸ばしAppleを抜きました。

アップルの事情

5GをめぐるiPhoneの状況はどうなっているでしょうか。2020年発売するiPhoneから5Gに対応すると言われており、あるアナリストによると全ての機種で5G対応になると分析されています。アップルは元々インテルのモデムチップを採用していましたが、インテルは5Gモデムから撤退してしまったので、インテル以外のチップを採用するしかありません。

アップルとクアルコムは「クアルコムの特許使用料が不当に高い」との訴訟を長らく続けていましたが、2019年4月に和解に至り、当面クアルコムから供給を当面受けることができることになっています。
またアップルは自社でiPhone用のプロセッサ(Aシリーズ、Uシリーズ)を開発しているので、CPUを含む他社のチップを採用することは無く、クアルコムのモデムチップを組み込み可能性が濃厚です。

またアップルは独自で5Gモデムを開発しているという噂もあります。これが本当だとすると、5Gモデムの開発も相応の投資が必要なので、クアルコムからの供給が受けられる期間の間にアップルが自社開発をどのように進めるか注目して見守りたいと思います。

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(※1) サブ6GHz:5G携帯電話の新周波数の中でFR1と呼ばれる周波数帯(450〜6000MHz)の中で6GHzに近い周波数。
(※2) ミリ波帯:5G携帯電話の新周波数の中でFR2と呼ばれる周波数帯(24GHz〜52GHz)
(※3) 米連邦取引委員会(FTC)がクアルコムを相手取った訴訟
(※4) シャオミ(Xiaomi):中国スマートフォン大手。2019年にコストパフォーマンスの高い端末で日本市場に参入。
(※5) OPPO:シャオミに次ぐ中国スマートフォン大手。2008年に携帯電話事業に参入