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【新型コロナウイルス】現状の整理

 こんにちは。たけぴです。
新型コロナウイルスのニュースが連日報道されています。様々な問題とともに人々の不安や混乱が見られるので、私も自分なりに状況とそれに対する考え方を整理してみたいと思います。

コロナウイルスとは

一般にコロナウイルスと呼ばれるものは風邪を引き起こす4種類のコロナウイルスと動物に感染していたウイルスが変異して人に感染するようになった2種類のもの(SARS, MERS)が知られていました(詳しい解説はこちら)。

それぞれのウイルスは症状や感染源、潜伏期間、流行地などが異なります。
今回の新型コロナウイルス(以下新型コロナ)はこれらに続く7つ目のコロナウイルスとなり正式名称はSARS-CoV-2、感染症名はCOVID-19と呼ばれています。
その症状は咳、筋肉痛、倦怠感と発熱(一部では味覚・嗅覚の異常を引き起こすとも言われている)が続き、重症化した場合はウイルス性の肺炎を引き起こし最悪の場合、死に至ります。
感染経路は感染者のくしゃみや咳で飛んだ飛沫を吸い込んで感染る飛沫感染と手などに付着したウイルスを口や鼻に触ることで感染る接触感染の2つがあります。

新型コロナの世界的状況

新型コロナウイルスが全世界で猛威をふるっており、死亡者が増えている状況を確認して見ます。
以下のグラフをご覧ください。このグラフは横軸に日付、縦軸にコロナウイルスによって死亡した人の百万人当たりの人数を国別にプロットしたものです(2020/4/3時点)。縦軸は対数目盛になっていることにご注意ください。このグラフとは別に感染者数のグラフもありますが、感染者数は国によって検査の方法も検査率も異なり、データの信頼性が保証できないのでここでは実数値による議論はしません。(日本では全ての検査を行っていないので実際の感染者は公表データより遥かに多いと考えられています)。またこの死亡者数は新型コロナ検査陽性を元に出している値です。もともと肺炎で入院して死亡した人が感染検査を受けていたかは分からないことに注意が必要です。

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100万人当たりの死亡者の推移:出典:https://web.sapmed.ac.jp/canmol/coronavirus/death_e.html

横軸のグラフの立ち上がり点を見るとウイルスの発生源と言われる中国で最初に立ち上がって、その後に韓国、イタリア、フランス、オーストラリア、日本、英国、米国、ドイツ、と続きます。死亡の前に感染や潜伏期間があるのでこの順番で中国から他国に感染が広がったとは限りません。中国は強い情報統制が可能なので何処までデータを信用してよいかというのはありますが、一旦信じるとしますと、1月末に急激に増えてその後徐々にカーブが緩やかになり死者数はほぼ横ばいになっています。その他の国では現時点で立ち上がりと同じ勾配で増え続けているもの(つまり指数関数的に増加)、やや鈍化しつつあるものに分けられます。このカーブの度合いを見ることによって、これから死亡者がどの程度のスピードで増えていくかをある程度推定することができます。

現時点での傾きを見ると欧州の一部、アメリカで感染爆発を起こしていて、日本や韓国は爆発とまで行かない傾きで推移しています。

日本の状況

4/4時点での日本の単位死亡者数が欧米諸国、米国と比較して低いという事実は日本の状況としては1つ安心して良い材料かと思います。日本がこれほどの低死亡者数に収まっている原因は以下のようなことが考えられます。

  • マスクの着用が多いことやハグなどの習慣が無い
  • 学校の一斉休校や外国からの入国制限対策
  • 不要不急の外出の自粛要請や感染条件を避けるにより感染確率を抑える

今のところ政府による外出自粛要請やクラスターを抑える施策が一定程度効いていると言われています。

また日本で死亡者が少ない理由として上記以外にも以下のような仮説があります。

仮説1:ウイルスの種類

新型コロナの遺伝子配列には感染力に違いのあるS型(弱い)とL型(強い)があることが分かっており、細かくはもっと多い種類に分類できるとのことです。
そして日本にはS型が最初に入ってきて無症状のまま免疫を形成していたという仮説が考えられます。
中国ではS型がまず発生しその後L型が変異によって発生。中国の研究チームによるとS型は中国全体の約30%、L型は全体の約70%武漢の感染者は96.3%がL型だったとのことです。
もし日本人の場合を調べてS型の方が多い、あるいは致死率が高いイタリアや米国でL型が多いというエビデンスが見つかればこの仮説は有力になるかと思います。

仮説2:日本人の潜在的な免疫力

BCGワクチンの種類ごとの接種率と新型コロナによる死亡率に相関があるデータが見つかっており、日本人が接種しているBCGワクチンによりコロナに対する免疫が働いたという仮説

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https://www.researchgate.net/publication/50892386_The_BCG_World_Atlas_A_Database_of_Global_BCG_Vaccination_Policies_and_Practices#pf3

こちらに国別のBCGワクチンの摂取と死亡との関係を詳細に調べたJun Sato氏のブログ(英語)が載っています。BCGにはワクチンに系統があり、デンマーク株、ロシア株、パスツール株、ブラジル株、日本株など複数あり、国によって接種を義務付けている国と過去に義務付けていたが止めた国など接種状況は様々です。ブログに載せてあるデータによると日本株(Tokyo-172)、ロシア株(Russia)、ブラジル株(Moreau)を接種している国は死亡率が低い、接種を義務付けていないイタリア、オランダ、米国は死亡率が高いという結果になっていたり、ワクチン接種施策が異なっていた旧東ドイツと旧西ドイツで死亡率が異なるなど大変興味深い分析になっています。

また、日本株(Tokyo-172)、ロシア株(Russia)、ブラジル株(Moreau)はワクチン系統の中で比較的初期に開発されたもので、他の亜株と比較してMPB64/MPB70/MPB80といったタンパク質の産生有無や遺伝子配列の一部のコピー数に違いがあることが分かっています。(※4)

BCGはもともと結核を予防するためのワクチンですが、免疫メカニズムとしては結核菌だけでなくウイルス感染にも作用する単球(※3)を生成するトリガーとなる場合があるらしいです。日本株などの新型コロナに対して強力なワクチンを接種していた場合、免疫力があるために感染発症しない可能性と、感染しても死亡するリスクが低くなる可能性の2つが考えられます。

これらの仮説が正しいかどうかはまだ実証されていません。私は個人的に仮説2が有力だと考えています。BCGの新型コロナに対する有効性についてはすでにドイツ(マックス・プランク研究所)、オランダ、オーストラリアの医療機関臨床試験が始まっており、今後の科学的な検証を待つ必要があります。日本でも早急に調査を開始すべきでしょう。

流行を収束させる方策

私は感染学や免疫学の専門家ではないので詳細は語れないのですが、インフルエンザにしろコロナにしろウイルスの流行とその収束を説明するためには集団免疫という考え方があります。一般に人が免疫力を高める方法としてワクチンを打つ(接種する)という方法と感染により抗体を作るという方法があるそうです。抗体を持つ人が人口の中で一定割合まで増えれば(これを集団免疫率という)ウイルスが未感染の人に伝染る確率は減り、流行は収束して行くというのが集団免疫です。

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出典:MIT Technology Review

上図のように左の図は抗体(免疫力)を持つ人が少ない場合で感染者が増える確率が高く流行していく状態で、右の図は抗体(免疫力)を持つ人が周りにいる場合で感染者が増える確率が低く収束していく状態です。

日本の専門家委員会の説明によると感染者数のピークを抑え、患者の増加スピードを抑えることで医療崩壊を防ぎつつ集団免疫を作るという戦略を取るという考えです。(以下の図を参照)

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出典:新型コロナウイルス感染症対策本部(首相官邸

流行の感染者ピークを抑えるということは上記のグラフが示す通り定性的には収束の時間も長くなります。首相が述べている「長期戦になるかもしれない」というのはこのことを指していると思われます。

感染のスピードを左右する再生産数

疫学上の基本再生産数(R0と表記)とはホスト人口全体が感受性(感染しうる人)である場合、1人の感染者が他の未感染者に2次感染させる平均数のことで、R0>1なら流行が拡大しR0<1なら収束します。過去に流行した感染症として例えば風疹は5〜7、SARSは2〜5、インフルエンザは1〜2といったようにR0は感染症の種類によって幅を持っています。またホスト人口全体がかならずしも感受性でない場合は(つまりすでに抗体をもつ人が一定割合いる場合)、実効再生算数(Rと表記)を指標にすることが多いようです。実効再生産は流行のフェーズによって変動していきます。

上のグラフで考えるとR0が高い場合は患者数の推移がより高いピークになり、逆に低い場合はより緩やかなピークになります。R0はウイルス固有の値ではなく社会政策を含め飛沫感染接触をどの程度防ぐかによっても変わる値(特に密集、密接、密閉空間では高くなる)であり、とくに流行が始まった時の初動により抑え込むことが重要と考えられています。世界的には新型コロナのR0は2〜3、中国ではR0=5とも言われています。日本においてはR0=1.5(※2)、また日本の政府専門家会議では3月時点での日本全国の実効再生算数は1以上、東京では1.7と報告されています。

再生産数R0と集団免疫率Hには関係性があり、H = 1 - 1/R0 という関係式が成り立ちます。例えば基本再生産数R0=2.5の場合はH=0.6となり人口の六割が感染すれば集団免疫により流行が収束に向かうと考えられます。

ウイルスの流行はいつ収束するのか?

感染症流行を予測する手段として数理的なモデルを用いる方法が古くからあります。ベーシックは方法としては未感染、感染、回復といった状態を感染率、回復率、隔離率等を用いて決定論的なモデルを常微分方程式で表すSIRモデルというのが有名です。他にも潜伏期間を考慮したSEIRモデル、隔離されていない状態や間接接触の状態を考慮したモデルなども提案されています。これらのモデルを用いてシミュレーションを行うと経過時間に応じて感染者や回復者の推移を可視化することが可能になります。今回の新型コロナによる中国における流行についても中国の研究者が複数のモデルを提案しています。ただ現実社会では感染の環境、活性の季節性や封じ込め施策など複数の要因が影響するのでモデルを使ったシミュレーションで正確な予測をするのは難しいようです。参考までに手元のSEIRシミュレーションで見た傾向を以下に示します。(こちらの記事スクリプトを利用させていただきました)

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SEIRシミュレーション
縦軸は人口比割合、横軸は経過日数です。図の青線は感染しうる人、赤は回復者、緑は感染者、オレンジは潜伏期間の人を表します。左図は基本再生産数R0=2.5の場合、右図は基本再生産数R0=1.5の場合です。潜伏期間は5日、回復期間は7.4日で計算しました。R0が低い方が緑の感染者ピークを抑えられていることが分かります。

流行のピークを予測する別の方法として、集団免疫がどの程度出来ているかというのを推定できれば良いと考えられます。集団免疫は抗体を持つ人が計測できれば良いので抗体検査(※1)を行うことが有用だと思われます。現時点では抗体を計測する精度に課題があるそうですが、私はそれほど気にする必要はないと考えています。なぜなら計測は個人の抗体有無を判断する目的ではなく、集団免疫率の推定を行うためなので、全人口分行う必要は無くサンプリング数を確保すれば良いからです。最も現実的な方法は日々採取している献血から抜き取って血清抗体検査を行うことになるでしょう。抗体を計測することで集団免疫を推定することは実際的なアプローチとして個人的に重要だと思いますので是非専門家の皆様に検討して欲しいと思います。

集団免疫率を見る確実な方法として抗体検査が実施できていない現状として、どのように集団免疫率を推定するのが良いでしょうか?政府が発表するPCR検査の陽性患者数は実態を表しているとは考えにくいのでこれは採用できそうにありません。考えられるオプションとしては(1)PCR検査を申請する数の推移を調べる (2)PCR検査の陽性率の推移を見る 、あたりが間接的に見れる手段かもしれません(他に良いアイデアがあれば教えてください)。

日本の収束時期を推定することは現時点では難しいのですが、感染爆発を起こした他国の収束時期が日本より先に来たとするとそれを持って日本の収束時期を推定する手がかりになるかもしれません。但し他国の事例で感染者のピークが見えたからといって集団免疫が出来上がっているとは限らないです。つまり集団免疫が出来上がっていなければ強制封鎖により一時的にピークを抑え込んだ状態から封鎖を解除したらまた感染者が増加する可能性があります。地方より都市部の方が集団免疫が形成されているとすると、封鎖(自粛)解除により今度は地方に流行が広がる恐れがあります。他国が封鎖を解除したから日本も自粛を解除するなどと安易な判断にならないようここは注意が必要でしょう。

再流行の可能性について

今回の新型コロナは従来のインフルエンザのように夏場の高い温湿度に対して弱いというエビデンスは今のところないので夏場に流行が収束せず再流行する恐れもあります。手元のSEIRシミュレーションによると行動変容で感染ピークを抑えるほど流行終焉後の回復者は少ない傾向(つまりウイルスに全くさらされずにシーズンを過ごした人が多い傾向)が見られますので、集団免疫を高める施策を実行しなかった場合、再流行は今回被害が大きかった諸外国よりも日本の方が大きい可能性があります。

以上、グローバルな事実と日本の状況を踏まえると、私としては感染爆発を防ぐという意味で専門家委員の考えをふまえた政府の施策はひとまず上手く働いていると考えています。とりわけ日本の場合はダイアモンド・プリンセスでの集団感染の報道により国民に緊張感と警戒感が生まれたことと、初期の外出自粛要請、及び仮説2のBCG仮説が相乗的に効いたのでは無いかと考えています。感染クラスターを追跡していく方法も蔓延初期は効果的ですが、流行が進むにつれて追跡が困難になり施策としてはあまり意味を持たなくなっていくでしょう。全体的には気を抜くことはできないですが、まず冷静に落ち着いても良い状況かと思います。

課題と懸念点

さて、一方で報道等で日々感染者が増えていることを見て不安に感じている人々も多いです。この不安を助長していることとして、「いつ感染爆発(オーバーシュート)してもおかしくない状況」という都知事の発言があると思います。現時点で「ぎりぎり持ちこたえている状況」というトップの発言もありましたが、問題なのは施策がどの程度効いているか、他の要因が効いているのかが定量的に語れない、その確証がないということかと思います。先の死亡数グラフでオーストラリアのプロットをみるように一定期間死者が増えていないが、突然増え始めるようなケースも見られますので、死亡者が急速に増える可能性は全くは否定出来ないです。毎日の感染者数増加をニュースで見て不安になる一般心理は理解出来るのですが、感染者の絶対数が一定数を超えたということを心配するのではなく、本当に確認すべきは医療崩壊を招かないほどの重篤者を受け入れるキャパが確保出来る見通しかということ、感染者の増加率が加速していないか(今の増加率が維持されているか)ということでかと思います。

直近では患者の受入れ病床の確保や重傷者/軽症者の仕分け、軽症者の別施設への分離などは今検討し進めているところで続報を待ちたいところです。
政府の動きにはもっとスピード感が欲しいというのと、医療ルールの柔軟な変更対応、PCR検査など医療政策の説明の透明性、人的リソースの確保などソフト面の対応方針の公開、などが必要と思います。またマスコミにはそれら政策の詳細な確認や客観的、科学的で冷静な報道を期待しています。

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(※1) 抗体検査:ウイルスに抵抗する能力(抗体)をすでに獲得しているかを調べる検査。獲得していれば現在ウイルスに感染しているか過去に感染したことがあるかが分かる。
(※2) 参考ソース
(※3) 単球:白血球の一種で、マクロファージや、樹状細胞に分化し、細菌、ウイルス等の異物に対する食作用を持つ。
(※4) 情報ソース