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【コロナウイルス】BCGがCOVID-19の重症化を抑制する可能性について

 こんにちは。たけぴです。

BCG接種が新型コロナの重傷化を抑制するという仮説(以下BCG仮説)を支持するデータが出ています。今後BCGが新型コロナに効く因果関係の解明が進んで行くと思われますが、私もこの因果関係の可能性について自分なりに調べ、仮説を立てて整理してみたいと思います。

私は医学、生物学、免疫学の専門家ではありませんので、以下の説明は専門的に不正確な部分を含んでいるかもしれません。詳細を知りたい方は専門家が記述した情報ソースをご確認ください。この記事は現時点で専門家のレビューを受けていません。専門家からコメントをいただけると助かります。またこの記事は一般の医療機関でBCGを従来の結核予防以外の目的で新型コロナの予防として試みることを推奨するものではありません。

新型コロナの死者数について明らかになっていること

死者数の統計データ
  • BCG接種が必須である国、過去は必須で今は止めてしまった国、現在必須ではない国の順で単位人口あたりの死亡率に有意な差がある
  • BCGの株の種類によって死亡率に有意な差がある。BCG Tokyo株接種国が最も死亡率が低く、その他のBCG株接種国がその次に死亡率が低い。BCG未摂取国は死亡率が高い(※1-1, 1-2)
新型コロナの感染傾向

新型コロナの感染傾向として通常の感染症とは異なる以下のような現象があるということが確認されています。

  • 新型コロナは感染しても、症状が出ない人が一定割合で含まれる
  • 発熱しないで呼吸器の異常がある場合がある
  • 感染しても抗体の上昇が緩やかな場合がある
  • 感染して回復しても抗体が落ちていく場合がある

調査したいこと

上記の事実に対して何故BCGが新型コロナに効くのか、という点と何故BCG Tokyoなどの古株が他の株より新型コロナに効くのか、ということに対して出せる仮説を主に免疫学の方面から以下のように調査してみました。

免疫とBCG

免疫とは体内に侵入した細菌やウイルスなどを異常物として攻撃することで、自分の身体を正常に保つ働きのことです。
人間の免疫システムには「自然免疫」と「獲得免疫」があり自然免疫というのは人が生まれながらにして持っている免疫、獲得免疫は感染症にかかることやワクチンを打つことなどで生まれた後に獲得された免疫のことを言います。人の免疫反応の大まかな流れは以下の通りです。
(1)病原体が体内に入り自然免疫が発動(マクロファージ、樹状細胞、マスト細胞が病原体と戦う)
(2)自然免疫で対応しきれない場合、獲得免疫としてT細胞等の応援部隊を呼び、B細胞を活性化して抗体を出して病原体を攻撃します。T細胞は外来病原体の異物タンパク質(これを総称して抗原という)による刺激の後に増殖し、病原体を排除した後その一部は抗原特異的な記憶T細胞に分化します。この記憶細胞が残るおかげで再度病原菌にさらされた時に速やかに免疫反応が起こります。

人はこのような免疫反応で病原体を認識したとき、病原体への攻撃を応援してくれる細胞を呼ぶためサイトカインという物質を放出します。サイトカインにはインターロイキン(IL-n)やIFNγなど様々な種類があり、自然免疫の場合のサイトカインはTNF-α, IL-1などが産生されます。

BCGワクチンはもともと結核菌という細菌に侵されないように接種されるワクチンなのですが、近年、結核以外のある種の疾患に対しても免疫機構が働く(これをオフターゲット効果という)ということが分かっています。BCGはワクチンを接種することで自然免疫を刺激し、自然免疫が働きやすくなるように訓練された状態になりそれが長期の記憶として定着するのではないかと言われています。(これを訓練免疫という)(※2)

ウイルスによる感染と発症のメカニズム

RNAウイルスである新型コロナウイルスに感染し、重症化にいたる流れを簡単に説明します。

ウイルス感染と増殖のステップ
(1)飛沫または接触により一定数以上の新型コロナウイルスが体内に入る(※3)
(2)体内に入ったウイルスが体内細胞のACE2と呼ばれる受容体に吸着する
(3)ウイルスのエンベロープが細胞と融合しウイルスのタンパク質と核酸(RNA)が細胞内に侵入する
(4)ウイルスのRNAを包んでいるタンパク質を壊しRNAを放出する
(5)放出されたRNAを複製する
(6)複製されたRNAとタンパク質で子ウイルスを生成する

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出典:東京大学医科学研究所

ウイルスの吸着・感染は主に上気道又は下気道で起こり増殖は下気道から先の肺、及びACE2受容体を持つ器官で起こります。増殖の過程で自然免疫が発動し体内のマクロファージなどの細胞がウイルスの貪食を試みます。それと同時にマクロファージは他の細胞から応援をもらうためにサイトカインという物質を放出して免疫細胞(キラー細胞や抗体など)が活性化されます。通常であれば自然免疫による貪食でウイルス細胞が減少し治癒にいたりますが、それが抑えきれない場合はサイトカインが他の物質によって異常に活性化し炎症状態を引き起こします(これをサイトカインストームという)。サイトカインストームは「サイトカインの放出」→「免疫細胞の活性化」→「サイトカインの放出」を繰り返して異常に活性化してしまう状態です。最終的に呼吸困難に陥り急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を引き起こします。

BCGによる免疫反応

世の中には様々な病原菌、ウイルスがあり体内に知らず知らずのうちに取り込まれているのですが、通常健康でいられるのは血液中にある免疫細胞が病原体を攻撃して取り除いてくれているためです。その免疫細胞の主なものは白血球の1種である単球から分化したマクロファージや樹状細胞です。

さて以前ブログでも少し触れましたが、2018年にオランダの研究チームがBCGワクチン接種による訓練免疫に関連する興味深い論文を発表しています(※4)。これはBCGを接種することによって免疫細胞が発動しやすい状態に遺伝子装飾としてのスイッチが入り(これをエピジェネティックな再プログラミングを誘導と表現)、病原体である黄熱ウイルス(YFV)に対して免疫細胞の中のサイトカイン(IL-1β)が上昇、BCG未接種と接種で比較したところ、BCG接種の方が接種5日後に血中ウイルスの低下が見られ、感染から保護される現象を確認したとのことです。

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出典:Cell Host & Microbe

なお、この実験ではワクチン接種90日後の黄熱中和抗体価はBCG非接種と比べて有意差はない結果になっています。
「免疫細胞が発動しやすい状態」というのは具体的には単球のクロマチン(※5)に含まれるヒストンタンパクが遺伝子を発動する状態で、これはBCG接種前後でゲノムシーケンスを解析することでわかる、ということのようです。また論文ではIL-1βの産生異常が訓練免疫を誘導する中心的役割の可能性があると主張しています。
この論文は新型コロナに対する検証ではありませんが、BCGワクチンが特定のウイルスに対しても有効である1事例となっています。FYVと新型コロナウイルスの類似性が分かると、より確かなことが言えるようになるかもしれません。

病原体を認識する方法

パターン認識受容体による認識

人間の身体には様々な細菌やウイルスが潜んでいますが、それを異物かどうかを認識する機能を持っています。自然免疫にてその認識を担うのはパターン認識受容体(PRRs)と呼ばれる受容体です。PRRsに適合する病原菌を異物(これを病原体特有の構造:PAMPと呼ぶ)と認識します。PRRsはマクロファージ、樹状細胞、マスト細胞が持っています。PRRsには幾つかタイプがあり、ウイルスを受容するタイプとしては細胞表面及び細胞内にあるToll Like受容体(TLR)、細胞内部にあるRIG-I様受容体(RLR)というのが知られています。

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出典:Jpn. J. Clin. Immunol., 34 (5) 329~345 (2011) (C) 2011 The Japan Society for Clinical Immunology

TLRは細かくは11種類ほど分類されていて、その中で一本鎖RNAウイルスを認識するものはTLR-7, TLR-8です(※6,7)。これらのTLRはウイルスそのものでは無くウイルスのRNA又はDNAに反応します。

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出典:免疫応答のフロントライン 山崎 晶 http://www.md.tsukuba.ac.jp/basic-med/ss2012/Yamasaki.pdf

またSARS-CoV2ではないですが、自然免疫にてSARS-CoV抗原体を認識するメカニズムでは上図のRIG-IやMDA5であることが大阪大学の平野先生から発表されています。またARDSはIL-6を中心としたサイトカインストームで引き起こされると説明されています。(※8)

BCG株種による特性の違い

(1)亜株による成分の違い
 BCGは1926年にPasteur研究所から導入した国によって亜種が分かれており、各国で独自に培養される間に株特異的に遺伝子欠損や変異が生じています。日本のBCG Tokyo株は元株のウシ胆汁(M.bovis)から継代培養されたものが元になっており比較的古く分配されたものです。それぞれの亜種で表1のように細菌学的な形質に違いがあることが分かっています。

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出典:BCG の歴史:過去の研究から何を学ぶべきか https://jata.or.jp/rit/rj/tenbo/48toida.pdf

表のMPBというはタンパク質、IS6110は遺伝子領域のコピー数です。MPBとIS6110、他RDx(Region of Difference)と呼ばれる遺伝子領域は比較的古いTokyo株/Moreau株/Russia株で残っています。

(2)エピトープの違い
病原体を認識するもう1つの方法がエピトープによるものです。エピトープとは抗体が認識する抗原(タンパク質)の一部のことをいい、通常1つの抗原には複数のエピトープがあります。エピトープは宿主細胞のT細胞受容体又はB細胞受容体に認識されて結合します。T細胞に抗原が認識される場合、まず抗原はマクロファージ、B細胞の抗原提示細胞にとりこまれペプチドに分解されます。処理されたペプチドがT細胞レセプターに提示され、T細胞が活性化されます。(※9)
2013年 中国の研究チームはBCGのゲノム情報とエピトープ数がBCGの株毎にどのような差があるかを調べました。全483のT細胞エピトープの中でBCG Tokyo/Russiaなど古い世代の株にエピトープ数が多いことが示されています。(※10)

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図1 亜株によるエピトープ数の違い

図1の通りTokyo株/Russia株/Sweden株/Moreau株でエピトープの数が多いことが分かります。MPBに含まれるエピトープ数がこの群に含まれているということなのでしょうか。またこの論文ではBCG Tokyo株がより良いワクチン開発に使用するための最良の候補株であると提案しています。

亜株による免疫反応の違い

上記のように株によって性状が異なるBCGを接種したとき、その後の免疫反応はどのように変わるのでしょうか?以下に参考となる論文があります。(※11)
この論文では新生児にBCG Brazil, BCG Denmark, BCG Tokyoを接種し、1年後に採取した末梢血単核細胞(PBMC)から免疫反応を調べています。
発現するサイトカインを3つのタイプに分けるとBCG株は以下の通りの結果となりました。

Type 発現したサイトカイン BCG株
Type I IL-1α, IL-1β, IL-6, IL-24 BCG Tokyo
Type II IL-2β(IL-12β), IL-27, IFN-γ BCG Brazil 又は BCG Denmark
Type III TypeIのサイトカイン+TypeIIのサイトカイン BCG Denmark

BCG接種によって獲得免疫が発動するため様々なサイトカインが産生されることは当然ですが、上記の結果から以下の点が注目されます。

  • BCG Tokyo株は新型コロナの症例で見られるサイトカイン・ストームで見られるIL-6を発現している。(ただしIL-6が新型コロナに特有という訳ではない)
  • BCG Tokyo株は自然免疫で産生されるIL-1を発現している。(自然免疫を強化している可能性がある)

免疫における記憶細胞

抗原を認識しそれを記憶しておくメカニズムに関わる細胞は記憶T細胞、記憶B細胞、記憶NK細胞が知られています。
ヒトは一度抗原に直接曝露されるとその抗原を認識、記憶するので再度抗原が来たときに速やかに攻撃体制を整えることができます。幼い子どもが感染に対して脆弱であるのはこの免疫による記憶が形成されていないためではないかと言われています。言い換えれば「記憶を持たないナイーブ細胞を多く持っている」と言えるでしょう。

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出典:がん免疫.jp(小野薬品工業)

病原体に対する多様な防御機構

そしてウイルス由来の抗原に対して記憶を行うのがCD4+記憶T細胞です。興味深いことにインフルエンザワクチンにより記憶T細胞が反応するとインフルエンザ以外の環境抗原に対しても反応が見られることから、CD4+記憶T細胞は広い抗原反応(交差反応性が高いと言う)を持っており、ワクチン接種者はそのような記憶T細胞を多数持っていると言われています。(※12)
ナイーブT細胞は抗原に対しての反応に数日から1週間以上かかりますが、記憶細胞が形成されている場合は数時間で抗原反応が起きると言われています。

記憶B細胞は特定の抗原に対して反応が強い高親和性と似た抗原であれば反応しやすい低親和性の2種類があります。これらの記憶B細胞はヘルパーT細胞により産生されます(※13)。記憶B細胞はIL-9を介して活性化することが分かっています。BCG接種の場合IL-9は産生されないので記憶B細胞は関係ないかもしれません。
ちなみに、成人にBCGを接種することでNK細胞反応が長期間持続される研究結果も出ています。(※14)

考えられる仮説

以上の論文を踏まえてBCGワクチンが新型コロナの重症化を抑制する効果を検証するための仮説を立てます。
BCGを接種していない人は自然免疫をまず発動するが抗原を提示できず抗体が産生されないか、抗原提示後にリンパ球が活性化しにくく抗体産生が数日以上遅れるため、ウイルス増殖が急激に増えサイトカインストームが強くなり重症化する。

BCGを接種している人は自然免疫発動後、交差反応性により記憶T細胞が速やかに抗原を認識し、リンパ球を活性化し抗体を産生するためウイルス増殖を一定度抑制し、サイトカインストームは中定度に抑制され重症化しにくい。

BCG Tokyo等の古株を接種している人は上記に加え、IL-6を速やかに産生するので自然免疫と獲得免疫がほぼ同時に発動し、ウイルス増殖を速やかに食い止め、サイトカインストームは起きにくい。一部の人は抗体の上昇をまたずに治癒する。

以上が全体としての仮説になりますが、それに伴う免疫学的な発症事象としては以下が考えれます。

BCG接種の場合に起こると思われる現象(仮説)

・BCG接種、非摂取の人から採取した血中へ新型コロナウイルスを投与すると、BCG接種した人の血中の単球でIL-1β等のサイトカイン増加に有意な差が現れる。
・また同時にこの単球のサイトカインに記憶T細胞(CD4T系, CD8T系)の活性化に起因するものが現れる。
【2020/5/5 修正】
・また同時にこの単球のサイトカインに記憶T細胞(CD4T系, CD8T系)等のリンパ球の活性化に起因するものが現れる。

BCG亜株の種類によって有効性に差がある場合に起こると思われる現象(仮説)

・BCGのエピトープ解析で新型コロナの抗原との類似性が見つかる(交差反応が起きやすいとも言える)。特にBCG Tokyo株(特にMPB64, MPB70, MPB80)により多くの類似エピトープが見つかる。
 (そのような類似性はエピトープマッピングのペプチドを解析することで分かるのであろうか?)
・その類似性の指標と図1のエピトープ数とに一定の相関が見られる。
・その中でBCG Tokyo株ではIL-6が発現することによりTfh(B細胞を標的とする分化T細胞)とB細胞が早期に活性化している。

BCG仮説が全て証明される訳ではありませんが、以上の仮説を実験にて確かめることでBCG仮説を補強する一助になるのではないかと考えています。
免疫のメカニズムはまだまだ分かっていないことも多く、特にリンパ球の記憶細胞の長期記憶や自然免疫の記憶メカニズムも部分的な発見はあるものの詳細は解明されていません。これらの基礎研究と併せて解明が進むことが期待されます。

(→関連スレッドを読む: BCG接種により自然免疫は強化されるのか?)

【参考文献】
(※1-1) Association of BCG vaccination policy with prevalence and mortality of COVID-19
(※1-2) If I were North American/West European/Australian, I would take BCG vaccination now against the novel coronavirus pandemic.
(※2) コロナにBCGは「有効」なのか?東北大・大隅教授が緊急解説
(※3) 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のウイルス学的特徴と感染様式の考察(白木公康)
(※4) BCG Vaccination Protects against Experimental Viral Infection in Humans through the Induction of Cytokines Associated with Trained Immunity
(※5) クロマチン:真核細胞内に存在するDNAとタンパク質の複合体のことを表す。遺伝子の発現・複製・分離・修復等、DNAが関わるあらゆる機能の制御に積極的な役割を果たしていると考えられている。
(※6) 免疫応答のフロントライン
(※7) 免疫システムの常識を覆した 「Toll様受容体」
(※8) COVID-19克服への道
(※9) 技術用語解説 抗原決定基(エピトープ)
(※10) Genome Sequencing and Analysis of BCG Vaccine Strains
(※11) Unique Gene Expression Profiles in Infants Vaccinated with Different Strains of Mycobacterium bovis Bacille Calmette-Guérin
(※12) Virus-Specific CD4+ Memory-Phenotype T Cells Are Abundant in Unexposed Adults
(※13) 免疫記憶をつかさどる記憶Bリンパ球の産生経路を解明
(※14) Bacillus Calmette−Guérin (BCG) Revaccination of Adults with Latent Mycobacterium tuberculosis Infection Induces Long-Lived BCG-Reactive NK Cell Response

【参考図書】